フォールテッドカスコードアンプの入出力電圧範囲


前回までにTelescopic型のOpampとFoldedカスコードのOpampについて,両者の構成について比較しました.Folded Cascodeには消費電流が増える代わりに入力レンジの拡大というメリットがあることを解説しました.opampの入出力範囲について,TelescopicとFoldedを比較しながら,より詳細に解説していきたいと思います.

1. Telescopicの入出力スイング

まずはじめに,Telescopic構成における 入出力スイングの制約 について解説します.
以下の図は,前回も紹介した PMOS入力ペアのTelescopic Cascode Opamp です:
本節ではこの回路図を基に,入力電圧の動作範囲(入力コモンモードレンジ)を導出します.

入力電圧範囲

Opampの動作を正しく保証するためには,すべてのトランジスタ M0∼M8 が 飽和領域で動作している必要があります.
まず,テイル電流源 M0 には全体のバイアス電流 \(I_0\)​ が流れ,差動対の各ブランチにはそれぞれ \(I_0/2\) が分配されます.

入力上限 \(V_{in,max}\)

まず,入力電圧の上限から考えます.ノード \(V_x\)​ を M0​ のドレイン電位とすると,次の条件が必要です:
\(V_{DD} – V_x > V_{GS} – |V_{THP}|\)

ここで  \(V_{ov,0}\)は M0​ のオーバードライブ電圧です.また,差動対トランジスタ M1,M2が飽和動作するためには,それぞれ \(I_0/2\) を流せるバイアス(つまり必要な \(V_{GS}\) )が得られることが条件です.電圧関係より:
\( V_{in}=V_x−V_{GS,1}\)

したがって,
\(V_{in,max} < V_{DD} – V_{ov,0}|_{I_0} – V_{GS1,2}|_\frac{I_0}{2}\)
ここで \(V_{GS,1}\)は,M1に \(I_0/2\)を流すのに必要なゲート-ソース電圧です.


入力下限 \(V_{in,min}\)

次に,下限を求めます.M2​ のドレインノードを \(V_{D2}​\) とすると,飽和条件は:
\(V_{DS,2}>V_{GS,2}−|V_{THP}|\)

ここで:\(V_{DS,2}=V_x−V_{D2}, V_{GS,2}=V_x−V_{in}​\)

したがって,
\( V_{in}>V_{D2}−|V_{THP}| \)

ただし,ノード \(V_{D2} \)は,カスコードデバイス M4​ の飽和条件によって下限が設けられています.M4に \(I_0/2\) を流すためには,そのゲート-ソース電圧 \(V_{GS,4}\)​ を満たす必要があり,したがって:\(V_{D2}=V_{b1}+V_{GS,4}​\)
以上を整理すると,Telescopic構成における入力電圧の範囲は,以下のように表されます:

\(V_{in,min} = V_{b1} + V_{GS4}|_\frac{I_0}{2} – |V_{THP}|\)

なお,ここでは M2​ ブランチを例にとって解説しましたが,M1​ 側も同様の議論が適用されます.

出力電圧範囲

次に,出力スイングについて解説します.出力電圧の最大・最小についても,出力段のトランジスタが飽和動作を維持できるように,その飽和条件から導出することができます.

出力上限 \(V_{out,max}\)

出力の最大値は,M4(PMOSカスコード)のソース端子の電位が,M4が飽和状態を維持できるギリギリまで上昇したときに決まります.これは,バイアス電圧 \(V_{b1}\) を基準として,M4のゲート-ソース間電圧(スレッショルド含む)が取れる必要があるため,次のように書けます:

$$V_{out,max} = V_{b1} + |V_{THP}|$$

出力下限 \(V_{out,min}\)

出力電圧の最小値は,M6(NMOSカスコード)とM8(NMOSカレントミラー)が飽和動作を保てる範囲に依存します.M6が電流 \(\frac{I_0}{2}\),M8も同様に流すと仮定すれば,それぞれのオーバードライブ電圧 \(V_{ov}\) としきい値電圧 \(V_{THN}\) を加えた合計が,下限の電圧マージンとなります:

$$V_{out,min}=V_{ov,6}|_{I_0/2}+V_{ov,8}|_{I_0/2}+V_{THN}$$

補足:
ここでは下側のNMOS負荷にカスコード構成(M6-M8)を想定して導出しましたが,この構成では出力下限が高くなってしまい,スイングが狭くなります.そのため,実際の設計では低電圧カスコード(あるいはWide-Swing Cascode)がよく使われます.これにより,出力の下限を下げて,より広いスイングを実現することができます.今回はあくまで Telescopic構成とFolded Cascode構成の比較を目的としていますので,詳細は割愛します.興味のある方は「Wide-Swing Cascode」で検索してみてください.本記事の末尾でも少し触れようと思います.

以上をまとめると,Telescopic型の入出力レンジは次のようになります.

\(V_{in,max}=V_{DD} – V_{ov,10}|_{I_0} – V_{GS1,2}|_{I_0/2}\)
\(V_{in,min}=V_{b1}+V_{GS4}|_{I_0/2} – |V_{THP}|\)
\(V_{out,max} = V_{b1} + |V_{THP}|\)
\(V_{out,min}=V_{ov,6}|_{I_0/2}+V_{ov,8}|_{I_0/2}+V_{THN}\)

この手のOpampの入出力範囲の計算ってNMOSの入力ペアのものばかりが解説されますね.PMOSペアで計算しているのは稀かと思います.(自分が調べた限り見つけられなかったので).なぜわざわざPMOSペアで紹介してしまったのか..前回の記事から引き続きの内容だったので仕方ないですね.

Folded Cascodeの入出力スイング

次にFoldedカスコード Opampの入出力スイングについて,下図の回路を用いて,解説します.こちらも前回の記事で紹介した回路であり,Telescopicと条件合わせるために,NMOS側の出力負荷はカスコードカレントミラー回路となっています.

入力電圧範囲

入力上限 \(V_{in,max}\)

Tail電流源M0のドレインノードを\(V_x\), M10のドレイン電圧を\(V_{D2}\)として,\(V_{in,max},V_{out,max}\) を導出します.入力トランジスタM2の飽和動作条件より,入力の\(V_{in}\)をどこまで上昇できるか考えます:
\(V_{DS2} > V_{GS2} -V_{THN}\)

ここで,\(V_{DS2}=V_{D2} – V_x, V_{GS2}=V_{in}-V_x\)より,
\(V_{in}<V_{D2} +V_{THN}\)

ここで\(V_{D2}\)の下限をM4の動作条件から求めると,\(V_{D2,min}=V_{b1}+V_{GS4}|_{I_0/2}\)

上記より求めた\(V_{D2}\)を代入することで,入力上限が下記のように求められました.
\(V_{in,max}=V_{b1}+V_{GS4}|_{I_0/2}+V_{THN}\)

上記の式を見てわかるように,Vb1を適切にバイアスしてあげれば,入力上限は電源電圧までカバーすることができます.これがカスコードを折りたたむことによる,入力上限解放の最大のメリットです.

入力下限 \(V_{in,out}\)

\(V_x\)のノードはTail電流を飽和動作させるために,\(V_{ov,0}|_{I_0}\)である必要があります.また,M2は\(I_0/2\)でバイアスされているため,\(V_{in}\)は\(V_x\)より\(V_{GS2}|_\frac{I_0}{2}\)だけ高くある必要があります.そのため,下限側の制約としては下記になります.

\(V_{in,min}=V_{GS2}|_{I_0/2}+V_{ov,0}|_{I_0}\)

出力電圧範囲

出力上限 \(V_{out,max}\)

\(V_{out,max}\)を考えるとM4の飽和動作条件のため,\(V_{D2}-V_{out}>(V_{D2}-V_{b1})-|V_{THP}|\)より,
\(V_{out,max}=V_{b1}+|V_{THP}|\)

また,下限側はTelescopicと同様に考えることができます.

\(V_{out,min}=V_{ov,6}|{I_0/2}+V_{ov,8}|{I_0/2}+V_{THN}\)

となります.以上をまとめるとFolded Cascode Opampの入出力レンジは次のようになります.

\(V_{in,max}=V_{b1}+V_{GS4}|_{I_0/2}+V_{THN}\)
\(V_{in,min}=V_{GS2}|_{I_0/2}+V_{ov,0}|_{I_0}\)
\(V_{out,max}=V_{b1}+|V_{THP}|\)
\(V_{out,min}=V_{ov,6}|_{I_0/2}+V_{ov,8}|_{I_0/2}+V_{THN}\)

両者の電圧範囲の比較

ここまでで,Telescopic OpampとFolded Cascode Opampの入出力電圧範囲について,長々と計算を解き,導出してきました.ただ,上記の式だけではイメージが掴みにくいと思うので,実際に数値を与えることで視覚的に理解しやすくしたいと思います.ここでは,動作条件として,下記を仮定することとします.

\( V_{DD}=3.0 V,V_{THN}=|V_{THP}|=0.7V\)とします.全てのトランジスタのオーバードライブ電圧を\(V_{ov}=0.3V\)と仮定し,\(V_{b1}=1.3V\)でバイアスされているとします.(あくまで両者の特徴比較なので,バイアス点を工夫しろ!といったご指摘は一旦置いておいていただけると幸いです.)

上記の条件を各電圧の最大最小値に代入して,電圧レンジを視覚化したものが上の図です.これを見ると分かるように,Telescopic型のオペアンプでは入力電圧範囲がとても狭いのに対して,Folded Cascodeでは,入力電圧範囲を拡大し,電源レベルまでの入力を可能としています.これがフォールテッドカスコードアンプの最大のメリットです.例えば,ユニティゲインのバッファとしてOpampを使用する場合,入力と出力の電圧レベルは同じになるため,入出力で共通の範囲でしか動作できません.すると,左図(Telescopic型)のような入力範囲では自ずとユニティゲインバッファとして使用できるコモンモードレンジを縮小してしまい,要求する範囲を満たせないなんてことがあります.

テレスコピック型の入力電圧範囲を広げるには電源電圧を高くするが最も効果的です.しかし,回路全体の消費電力を上げてしまうというデメリットがついてきます.フォールテッドカスコードは電流パスを増やすことで消費電力にデメリットがありましたが,要求される電源電圧はテレスコピック型よりも融通が効きます.例えば,テレスコピック型のカスコードアンプを採用し,入力電圧範囲を広げるために電源電圧を上げたい,となった場合は周辺回路の電源電圧も上げなければいけない,あるいは,このOpamp用に高い電源を用意しなければいけない,といったチップ全体で見ると要求が難しくなることがわかります.このあたりのトレードオフを理解し,各アーキテクチャの特徴をしっかりと理解した上で,構造を決定することが大事なのです.

補足:低電圧カスコード(Wide-Swing-Cascode)

本章でちょこっと触れた低電圧カスコードについて,補足します.
出力レンジの拡大のためには,構成を下図のようにするとよいです.
左図の出力電圧の最小値制約が\( V_{ov,6}+V_{ov,8}+V_{THN}\)に対して,右図(低電圧カスコード)では,出力電圧の最小値制約\(V_{b6}-V_{{THN}\)になります.例えば,\(V_{b6}=2V_{ov}+V_{THN}\)に設定できれば,出力電圧の下限はオーバドライブ電圧2つ分で済みます.(\(V_{ov,6}=V_{ov,8}\))
Vb6の設定方法にはいろいろやり方があります.”低電圧カスコード”と検索すれば,よくまとまったサイトが出てきますので,そちら参照してください.
このサイトでも,気が向いたら書いてみようと思います.(すでに分かりやすく解説されているような技術を自分でまとめ直すのは中々モチベがあがらないので,書かないかもしれません..)

今回はここまで〜.長文見ていただきありがとうございました!

次回はついにFolded Cascode Opampの具体的な設計編を解説したいと思います!

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