フォールテッドカスコードアンプとは?
フォールテッドカスコードアンプ(Folded Cascode Opamp)は,テレスコピック型オペアンプの構成を変形し,トランジスタの縦方向のスタック数を削減した構成です.低電源電圧設計や広い入力コモンモード範囲(ICMR)が求められるアプリケーションで有効な手法として知られています.下図は、左がテレスコピック型(PMOS入力),右がフォールテッドカスコード型の構成です.フォールデッド構造では,入力ペア(M1,M2)を反転極性のトランジスタに変更し,独立した電流源\(I_{SS1}\),\(I_{SS2}\)でバイアスするようになっています.
これにより:
- 電流経路が折りたたまれる.
- 各入力ブランチに独立の電流源が必要になる.
- 消費電力は増加する(ISS = ISS1 + ISS2 > 1本構成.

なぜカスコードを折りたたむのか?
以下はカスコード構成の基本形とそれをフォールデッド構成に変換したものを示した図です.下図の左は,Pch入力の通常のカスコード構成,右がフォールテッド構成です.
カスコード構成の利点と課題
左図はPMOS入力ペアを用いた典型的なカスコード増幅回路です.カスコードアンプでは,利得(Gain)を稼ぐために出力抵抗を高める目的で,カスコードデバイス(M2など)を追加します.しかし,M1・M2ともに飽和領域で動作させるために,2段分の電圧マージン \(V_{dsat}\times 2\))が必要になります.結果として,低電源電圧設計ではヘッドルーム不足が問題になることがあります.
通常構成のデメリットを補うために,右図のようにカスコード段を折りたたみ,電流源 \( I_2 \)を追加します.これにより,電圧マージンの制約を緩和しつつ高い利得が得られるのが,フォールテッド構成の利点です.

実際の構成と回路図
下図は,MOSトランジスタで構成したフォールテッドカスコードアンプです.左はテレスコピック構成,右がフォールテッド構成です.フォールテッド構成における各トランジスタの役割を下表に示します.
各トランジスタの役割:
トランジスタ | 役割 |
---|---|
M0 | テイル電流源(Folded専用) |
M1–M2 | 差動入力ペア(NMOS) |
M3–M4 | 入力ペア用のカスコード |
M5–M6 | 出力弾カスコード |
M7–M8 | カレントミラー |
M9-M10 | 上部電流源 |

Telescopic構成では,スタックが深くなりすぎて,M6, M7, M8など下側の \(V_{\mathrm{dsat}}\) が確保できないことがあります.一方でフォールテッド構成では,入力段の電流を横方向に“折りたたみ”,バイアス段と出力段を分離することで,柔軟な設計が可能になります.
設計者向け補足:
- M1–M2には十分な \(g_m\) を確保する,
- M3–M4は V_{\mathrm{DS(sat)}} ギリギリで動作させることで出力のスイング確保.
- M9–M10はカレントミラーと組み合わせて利得・スイングのバランスを取る.
利得(Gain)の導出
利得は以下の式で定義されます:
$$A_v = G_m \cdot R_{\mathrm{out}}$$
◆ トランスコンダクタンス \( G_m \)
トランスコンダクタンスを求めるので,入力の微小変化電圧と出力の微小変化電流について小信号で考えていきます.
入力差動ペアに \( v_{\mathrm{in}} \) が入力されたとき:
- M1 に \(i_1 = \frac{g_{m1} \cdot v_{\mathrm{in}}}{2}\),M2 に \(i_2 = \frac{g_{m2} \cdot v_{\mathrm{in}}}{2}\)
- M3 には M1 由来の電流がそのまま流れる(M9, M10は電流源として一定)
- M5–M7 にも同様の電流が流れ、さらに M6–M8 はカレントミラーで同じ変動を出力側に反映
- M4 側は M2 に起因する電流が流れる
これらにより出力に現れる電流変化は:
$$ i_{\mathrm{out}} = i_4 + i_6 $$
\( g_{m1} = g_{m2} = g_{m1,2} \) とすれば:
$$ G_m = \frac{i_{\mathrm{out}}}{v_{\mathrm{in}}} = g_{m1,2} $$

◆ 出力抵抗 \( R_{\mathrm{out}} \)
出力から見た抵抗は,上側の R_p と下側の R_n の並列:
$$ R_{\mathrm{out}} = R_p \parallel R_n $$
それぞれ:
$$ R_p = g_{m4} \cdot r_{o4} \cdot (r_{o2} \parallel r_{o10}) $$
$$ R_n = g_{m6} \cdot r_{o6} \cdot r_{o8} $$
したがって:
$$A_v = g_{m1,2} \cdot \left( \left( g_{m4} \cdot r_{o4} \cdot (r_{o2} \parallel r_{o10}) \right) \parallel \left( g_{m6} \cdot r_{o6} \cdot r_{o8} \right) \right)$$

以上が,フォールテッドカスコードアンプの基本構成と利得導出の概要です.
テレスコピックとの性能比較
フォールテッドカスコードアンプ(Folded Cascode)とテレスコピックカスコードアンプ(Telescopic Cascode)は、どちらも高利得アンプとして使われる代表的な構成ですが、それぞれに異なる特性と設計上のメリット・デメリットがあります。以下の表に要点をまとめました.
項目 | テレスコピックアンプ | フォールテッドアンプ |
---|---|---|
電源電圧への適応 | △ 高い電源電圧が必要 | ◎ 低電圧動作可能 |
入力コモンモード範囲 | △ 狭い | ◎ 広い |
利得(Gain) | ◎ 高い | ○ 同程度もしくはやや劣 |
出力スイング | △ 狭い | ○ 比較的広い |
消費電力 | ◎ 低い | △ 高い |
テレスコピック型は構造がシンプルで利得が高いですが,スタック数が多いため電源電圧の制約が厳しくなります.一方でフォールテッド型は,スタック数が少ないことで低電源・広いICMRが実現できますが,構成が複雑になり消費電力が増加する傾向があります.
両者には明確なトレードオフが存在するため,どちらが優れているかは一概には言えません.アプリケーションの要件(電源電圧、スイング、利得、消費電力など)を踏まえた上で,回路構成を選定することが重要です.どちらの構造にもそれぞれの強みがあります.それらを理解した上で,目的や制約に応じて最適な構成を選択するのが,設計者としての腕の見せどころです.
まとめ
今回はテレスコピックカスコードと比較しながら,フォールテッドカスコードアンプについて簡単に解説してみました.次回,フォールテッドカスコードの優位性でもある入出力レンジの広さについて,具体的に動作点を確認しながら解説したいと思います.また,具体的な設計手順(W/L長の決定方法や利得計算等)についても解説していく予定です.引き続きよろしくお願いします.
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